シリーズ「変容する親密圏/公共圏5」京都大学学術出版会
『モダニティの変容と公共圏』 田中紀行・吉田 純 編
A5上製・281頁・税込 3,672円
ISBN: 9784876983780
発行年月: 2014/01
内容
これまで西欧近代社会をモデルとしてつくられてきた社会学の基礎概念は,グローバル化の進行に伴い相対化・再構成されつつある。モダニティの変容に伴って政治的領域の外部にまで展開し,「再帰的近代化」「第二の近代」とも特徴づけられる「公共圏」の内実を,西欧社会を基点にしつつアジアの視点からも理論的・複眼的に検討する。
目次
序章 モダニティの変容と公共圏論の展開 [田中紀行・吉田 純]
はじめに
1 「公共圏」概念の再検討
1—1.「公共」をめぐる用語法の混乱
1—2.公/私の区別の諸類型
1—3.二つの「公共圏」概念とその関係
2 モダニティの変容と公共圏/親密圏
2—1.公共圏/親密圏のマッピング
2—2.親密圏と広義の公共圏の現代的変容
2—3.市民的公共圏の現代的変容—インターネット公共圏論を中心に
3 本書の特徴と構成
3—1.本書の特徴
3—2.本書の構成
第I部 モダニティと公共圏への視座
第1章 公共圏と親密圏のディアボリズム [三上剛史]
序
1 シンボリックなものの過剰と近代
2 「公共圏」「親密圏」再考:用語を巡る中間考察
3 親密圏とディアボリックなもの:「愛」
4 公共圏とディアボリックなもの:「信頼」
小括:ディアボリックなものの働き
第2章 機能分化社会と公共圏—メディア論の視点から [高橋顕也]
はじめに
1 問題設定
2 ハーバーマス理論における公共圏とメディア
2—1.間主観性の哲学的基礎づけ
2—2.公共圏を構成するメディアとしての言語
3 ルーマン理論におけるコミュニケーションとメディア
4 象徴システムの理論
4—1.象徴システムとしてのメディア
4—2.象徴システムの制御
5 公共圏の顕現の場としての「ソーシャルな」コミュニケーション
第3章 近代と非理性的モメント—公共圏論の理論的基礎づけに向けて [園 知子]
はじめに
1 公共圏論から捨象されたモメント
1—1.情念とレトリック
1—2.美的・文化的想念:K. タッカーの見解
2 詩的創造力:J.ピーターズによるハーバーマス批判
3 近代と非理性的モメント—公共圏論の新たな理論的基礎づけの試み
3—1.ニーチェの近代批判
3—2.ハーバーマスの近代論
4 公共圏論の再構築に向けて
第4章 境界線を引きなおして他者を迎え入れる—公共圏,親密圏,シティズンシップ [中村健吾]
はじめに
1 公共圏のウェストファリア・モデルに対する批判
2 ハーバーマスとトランスナショナルな公共圏
3 公共圏の内部における排除と「翻訳」
4 親密圏における他者との対面
5 シティズンシップ—地位身分から実践へ
第II部 モダニティの多様性と公共圏・親密圏
第5章 社会主義的近代社会とその体制変容—親密圏と公共圏の再編成の困難 [ライカイ・ジョンボル]
はじめに
1 社会主義的近代社会
2 社会主義期のハンガリー
2—1.1950年代の前期
2—2.1950年代の後期〜1980年代の末期
3 ポスト社会主義期のハンガリー
3—1.概観
3—2.市民社会の形成の困難
3—3.社会的・制度的信頼と家族成員間の信頼
4 社会統合の基礎となる家族の連帯
5 静態的モデルから動態的モデルへ:親密圏と公共圏の変容
第6章 「つくられる共同体」の社会学的地平—親密圏と公共圏の交差 [田 恩伊]
はじめに
1 「つくられる」ゲマインシャフト
2 インテンショナル・コミュニティ—歴史と特徴
2—1.新しい共同体の模索(1940年代前後)
2—2.アーバン・コミュニティの芽生え(1940年代前後〜1970年代)
2—3.個人化時代と「分業」する共同体(1990年代〜)
3 新たな親密圏づくりの実践—日本と韓国の事例から
3—1.日本の事例から
3—2.韓国の事例から
3—3.小括
4 親密圏と公共圏が交差する「つくられる共同体」
5 結論 185
第7章 後期トゥレーヌの脱近代化論—モダニティをめぐる諸理論と現代アジア [濱西栄司]
1 現代アジアの社会変動をいかに理論化するか
1—1.「圧縮された近代」論と「モダニティの徹底化」論
1—2.多元的近代論とアラン・トゥレーヌ
2 後期トゥレーヌの脱近代化論
2—1.前・中期トゥレーヌとモダニティ
2—2.合理性/主体性としてのモダニティと脱近代化
2—3.モダニティの二重性,非−規範性,個々人の経験
3 新しい原理から文化運動へ
3—1.個性化への要求と葛藤のプロセス
3—2.批判理論/リキッド・モダニティ論との関係性
3—3.主体化を促進する場・連帯・制度
4 トゥレーヌ理論に基づくモダニティの制度/アクター分析
4—1.理論的枠組みの構築
4—2.現代アジアにおけるアクターの重層化
第8章 グローバリゼーションの到来と儒教倫理—社会学的研究 [林 端](高橋顕也訳)
はじめに
1 「普遍主義」対「個別主義」—ヴェーバーとパーソンズ:プロテスタンティズムの倫理と儒教倫理の関係をめぐって
2 儒教倫理の「文脈的普遍主義」—仁
3 普遍主義と個別主義についての現代社会学理論—ウルリッヒ・ベックの「文脈的普遍主義」
4 その他の現代世界論
5 結論
第9章 現代社会のヴィジュアル・ターンと東アジアの文化変容—ポピュラーカルチャーが相互浸透する時代の東アジア像 [油井清光]
はじめに
1 「啓蒙の弁証法」のなかの文化産業
2 現代社会の再魔術化とヴィジュアル・ターン
3 現代社会の基本構造の変容
4 文化的卓越性と文化資本
5 「文化仲介者」の決定的役割
6 東アジアにおける文化産業の興隆と交流
7 グローバルな文化現象としてのアニメ・マンガ:東アジアでの実態調査
8 「アジア主義」とヴィジュアル・ターン—グローバルとローカルの間で
あとがき [田中紀行・吉田 純]
索 引
プロフィール(執筆・翻訳順,[ ]内は担当章)
田中紀行(たなか のりゆき)[序章]
京都大学大学院文学研究科准教授。
京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。専攻:社会学史。
主な著作:「論壇ジャーナリズムの成立」青木保ほか編『近代日本文化論 第4巻 知識人』(岩波書店,1999年),「現代日本における歴史社会学の特質」鈴木幸壽ほか編『歴史社会学とマックス・ヴェーバー(上)』(理想社,2003年),「『ヴェーバー・パラダイム』をめぐる諸問題」(『哲学研究』第583号,2007年),「ヴェーバー受容と現代社会学」(『社会学雑誌』第27・28号(神戸大学社会学研究会),2011年)。
吉田 純(よしだ じゅん)[序章]
京都大学高等教育研究開発推進センター教授。
京都大学大学院文学研究科修士課程修了。博士(文学)。専攻:理論社会学,社会情報学。
主な著作:『インターネット空間の社会学—情報ネットワーク社会と公共圏』(世界思想社,2000年),『情報秩序の構築』(共著,早稲田大学出版部,2004年),『応用倫理学講義3 情報』(共著,岩波書店,2005年),『新リスク学ハンドブック—現代産業技術のリスクアセスメントと安全・安心の確保』(吉川榮和・杉万俊夫と共編,三松株式会社出版事業部,2009年)。
三上剛史(みかみ たけし)[第1章]
追手門学院大学社会学部教授。
京都大学大学院文学研究科博士課程中退。博士(文学)。専攻:知識社会学,社会学史。
主な著作:『社会学的ディアボリズム』(学文社,2013年),『社会の思考』(学文社,2010年),『道徳回帰とモダニティ』(恒生社厚生閣,2003年),『ポスト近代の社会学』(世界思想社,1993年)。
高橋顕也(たかはし あきなり)[第2章,第8章翻訳]
京都大学人間・環境学研究科博士後期課程在学。専攻:理論社会学。
主要論文:「ルーマンにおける象徴的に一般化されたメディア概念のモデル転換とその意義」(『社会学史研究』34号,2012年)。
園 知子(その ともこ)[第3章]
京都大学グローバルCOEリサーチ・アシスタント。
京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程在学。専攻:歴史社会学,社会思想史,理論社会学。
主な著作:「『京都ネットワーク』と『芸術家村』—公共圏における知識人論を分析視角として—」(『フォーラム現代社会学』10号,2011年)。
中村健吾(なかむら けんご)[第4章]
大阪市立大学大学院経済学研究科教授。
神戸大学大学院文化学研究科修了。文学博士。専攻:社会思想史,社会学。
主な著作:『21世紀のヨーロッパ福祉レジーム』(共編,糺の森書房,2012年),『古典から読み解く社会思想史』(編,ミネルヴァ書房,2009年),『欧州統合と近代国家の変容』(昭和堂,2005年)。
ライカイ・ジョンボル・ティボル(Rajkai Zsombor Tibor)[第5章]
立命館大学国際関係学部准教授。
京都大学大学院文学研究科行動文化学専攻博士学位取得。専攻:家族社会学。
主な著作:「『空虚な個人化』と家族の連帯—構造・体制変動を経験したハンガリー」(『ソシオロジ』160号,2007年),『競合する家族モデル論の構築』(京都大学学術出版会,近刊)。Frontiers and Boundaries: Encounters on China’ Margins. (Asiatische Forschungen 156. Wiesbaden: Harrassowitz Verlag, 2012, co-edited with Ildik Bellr-Hann).
田 恩伊(チョン ウニ)[第6章]
神戸大学大学院メディア文化研究センター学術推進研究員,同大学非常勤講師。
神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了(博士)。専攻:グローバル文化学。
主な著作・論文:「日本のインテンショナル・コミュニティ(Intentional Communities)—歴史的展開と現代的意味」(『ソシオロジ』55号,社会学研究会,2011年),「創られる共同体—Intentional Communitiesとは」『京都大学GCOE国際共同研究報告4‘公共圏と「多元的近代」の社会学理論’』(京都大学,2010年)。「リスク社会における日韓の低所得シングルマザーに対する就労支援—非営利組織活動を中心にして」(”Job Supports for Underclass Single Mother in Risk Society-Activities of NPO in Japan and Korea”『現代の社会病理』22号,訳,日本社会病理学会,2007年),『ガラスの塔—ある在日二世の生きてきた世界』(訳,思想の科学社,2003年)。
濱西栄司(はまにし えいじ)[第7章]
ノートルダム清心女子大学文学部現代社会学科講師。
京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学。博士(文学)。専攻:社会学理論,社会運動論,社会集団・組織論。
主な著作:『経験の社会学』(共訳,新泉社,2011年),「新しい社会的リスクと日本型ソーシャル・ガヴァナンス—社会的企業聞き取り調査の分析を中心に」(共生型経済推進フォーラム編『誰も切らないわけない経済』同時代社,2009年),「アクターの回帰とアクシオンの社会学—行為論的アプローチからの展開」(『現代社会学理論研究』7号,2013年),「311以後とアクターの回帰—日米丁サミットとトゥレーヌ理論を通して」(『批評研究』1号,2012年),「社会的排除と「経験の社会学」—3つの論理と接合のワーク」(『理論と動態』3号,2010年),”Los Movimientos Sociales Japoneses vistos a traves de la Configuracion de Actores en torno a la Cumbre del G8, 2008″ (Veredas: Revista del Pensamiento Sociologico, 21, 2010).
林 端(りん たん Lin Duan)[第8章]
元国立台湾大学社会学系教授。2013年没。
ハイデルベルク大学Ph. D(社会学)。専攻:社会学理論,宗教社会学,法社会学。
主な著作:Konfuzianische Ethik und Legitimation der Herrschaft im alten China. Eine Auseinandersetzung mit der vergleichenden Soziologie Max Webers. Berlin: Duncker & Humblot, 1997.『儒家倫理与法律文化:社会学視点的探索』北京:中国政法大学出版社,2002年。『韋伯論中國伝統法律』台北:三民書局,2003年。
油井清光(ゆい きよみつ)[第9章]
神戸大学大学院人文学研究科教授。
神戸大学大学院文化学研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。専攻:社会学理論。
主な著作:『リスク化する日本社会』(共著,岩波書店,2011年)。『現代人の社会学・入門—グローバル化時代の生活世界』(共編著,有斐閣,2010年)。『理論社会学の可能性—客観主義から主観主義まで』(共著,新曜社,2006年)。”Japanese Animation and Glocalization of Sociology.” (Sociologisk Forskning 47(4) Uppsala University, 2010).