第1巻 落合恵美子 編『親密圏と公共圏の再編成――アジア近代からの問い――』

Date/Time : 2015/03/25,Wednesday 

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シリーズ『変容する親密圏/公共圏1』京都大学学術出版会

『親密圏と公共圏の再編成―アジア近代からの問い』 落合恵美子編

 

 

A5上製・364頁・税込 3,888円

ISBN: 9784876985821

発行年月: 2013/02

 

書評

『人口学研究』第50号(第37巻第1号)、101-103頁、評者:高橋重郷氏

 

内容

アジア諸国では急速な経済発展を背景に,社会の近代化がきわめて短期間に進行し,繁栄と共に歪みをもたらした。こうしたグローバル化と「圧縮された近代化」による変容は,具体的にどのような展開をみせているのか。ジェンダー・人口移動・労働・ライフヒストリーからその実像を総合的に分析し,親密圏と公共圏のせめぎあう界面を描出する。

 

目次

序 章 アジア近代における親密圏と公共圏の再編成――「圧縮された近代」と「家族主義」[落合恵美子]

1 「第一の近代」と「第二の近代」――人口とジェンダーに注目した再定義

1―1.「第一の近代」の成立

1―2.公的領域と私的領域,親密圏と公共圏

1―3.人口転換と近代

1―4.ジェンダーと近代

1―5.市民社会の双方向への拡大――「第二の近代」の新たな社会秩序

2 アジア近代の論理――「圧縮された近代」と「半圧縮近代」

2―1.人口転換とアジア近代

2―2.ジェンダーとアジア近代

3 アジア近代の家族と国家

3―1.家族主義とは何か

3―2.アジアの家族主義

3―3.「圧縮された近代」の家族と国家

3―4.アジア社会のゆくえ

4 本書の構成

 

第1章 個人主義なき個人化――「圧縮された近代」と東アジアの曖昧な家族危機 [張 慶燮]

1 パラドックス――家族主義的東アジア人の個人化

2 圧縮された近代,家族の変容,個人化

3 家族中心的な(圧縮された)近代と脱家族化――制度化された家族主義

4 第二の近代とその制度的影響――リスク回避としての個人化

5 家族主義的制度下での個人化傾向――経験的証拠

6 比較評価―日本の経験の概観

 

第2章 東アジアの低出生率と家族主義――半圧縮近代としての日本 [落合恵美子]

1 東アジアにおける超低,極低出生率

1―1.東アジア内における多様性

1―2.低出生率の歴史的発展

1―3.「圧縮された近代」と人口転換

2 東アジアにおける婚姻の逆説

2―1.離婚,晩婚,生涯未婚

2―2.同棲と婚姻外の出生

2―3.国際結婚と高い出生性比

2―4.東アジアの婚姻とリスク回避的な個人化

3 家族主義の多様性とその失敗

3―1.家族主義の原因

3―2.日本における家族主義的改革

3―3.その他の東アジア社会における自由主義的家族主義

4 結論

 

第3章 人口ボーナスとアジアの将来 [パチャラワライ・ウォンブーンシン,クア・ウォンブーンシン]

はじめに

1 人口ボーナスとは

1―1.第一次人口ボーナス

1―2.第二の人口ボーナス

2 アジアの将来

2―1.人口ボーナスの消滅

2―2.スキルギャップ

2―3.DINKとSINKの社会

2―4.高齢化社会

2―5.経済への影響

2―6.家族への影響

2―7.高齢社会の女性化と女性の労働参加率の低下

3 公共圏

3―1.現在の人口ボーナスの利用

3―2.第二の人口ボーナスに向けて

要約と結論

 

第4章 戦後日本型ライフコースの変容と家族主義――数量的生活史データの分析から [岩井八郎]

1 ライフコースと家族主義

2 福祉レジームの比較からみた日本

3 M字型就業パターンの定着と変容

3―1.「団塊の世代」のライフコース

3―2.「団塊ジュニア」のライフコース

3―3.就業パターンと家族形成

4 高齢者の社会的地位と同居の意味の変化

4―1.高齢者の社会的地位の変化

4―2.子ども世代の不安定化と同居の意味

5 若年男性の学歴と初期キャリア

5―1.初期キャリアの不安定化:無職,非正規雇用,転職の分析

5―2.初期キャリアのプロフィール

6 縮小する日本型システムとその課題

 

第5章 正規/非正規雇用の賃金格差要因――日・韓・台の比較から [太郎丸博]

1 問題:なぜ非正規雇用の賃金は低いのか?

2 非正規雇用の賃金抑制要因

2―1.労働力需給バランス

2―2.人的資本

2―3.職業の特性

2―4.性差別

2―5.非正規雇用そのものに対する差別

3 モデル:Oaxaca-Blinder 要因分解

4 データ

5 分析結果

5―1.正規雇用の賃金関数の日韓台比較

5―2.Oaxaca-Blinder 要因分解の結果

6 議論

 

第6章 ケアダイヤモンドと福祉レジーム――東アジア・東南アジア6社会の比較研究 [落合恵美子]

1 社会的ネットワークと福祉ミックス

2 アジア家族の比較研究

3 子どものケアをめぐる社会的ネットワーク

3―1.親族

3―2.コミュニティ

3―3.施設

3―4.家事労働者

3―5.父親と母親

3―6.地域による違い

4 高齢者のケアをめぐる社会的ネットワーク

4―1.子どもと子どもの配偶者

4―2.親族

4―3.コミュニティ

4―4.施設

4―5.家事・介護労働者

5 ケアダイアモンドと福祉レジーム

5―1.ケアダイアモンド

5―2.福祉レジーム

6 ケアネットワークの再編成

 

第7章 家族ケアの担い手として組み込まれる外国人家事労働者――香港・台湾・シンガポールを事例として [安里和晃]

はじめに

1 アジアにおける家族主義

1―1.台湾

1―2.シンガポール

1―3.香港

まとめ

 

第8章 韓国の社会投資政策 [イト・ペング]

1 政策の学習と移転

2 韓国におけるソーシャルケアの拡大

3 2000年以降の政策転換の政治経済的背景:政策規範と政策学習

4 2003年以降の子育て改革プロセス:社会投資パラダイムのもとでのソーシャルケアの進展

5 結論

 

第9章 比較法の視点から見た家族法 [水野紀子]

1 法のイメージと機能

2 日本家族法の特徴

3 家族の観念と家族の保護

 

第10章 フェミニズムにおける「私」と「公」のダイナミクス――ドイツと日本 [イルゼ・レンツ]

1 公と私の変化する関係

2 女性運動とは何か

3 フェミニズムと近代ジェンダー秩序の変容

3―1.近代新家父長制的ジェンダー秩序の発展

3―2.差異に基づくジェンダー秩序

3―3.フレキシブルなジェンダー秩序は現れつつあるのか?

4 「私的なるもの」の未来?

 

第11章 アジアの市民的公共圏と市民社会――新たな公共性に向けて [五十嵐誠一]

はじめに

1 分析の視点

1―1.市民的公共圏と市民社会

1―2.トランスナショナル市民社会と地域主義

2 アジアの市民的公共圏と市民社会の定量的検討

2―1.ナショナル・レベル

2―2.リージョナル・レベル

3 アジアの市民社会の成長と停滞

3―1.ピープルパワーと市民社会

3―2.弱い国家と市民社会

3―3.政府管理の市民社会

3―4.停滞する市民社会

4 トランスナショナルな市民社会の台頭

4―1.ASEAN憲章制定過程

4―2.人権擁護

4―3.移民労働

4―4.環境保護

4―5.紛争予防

おわりに

索 引

 

プロフィール

落合恵美子(おちあい えみこ)

京都大学大学院文学研究科教授。

東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。専攻:家族社会学。

主な著作:『21世紀家族へ—家族の戦後体制の見かた・超えかた(第3版)』(有斐閣,2004年),『アジアの家族とジェンダー』(山根真理・宮坂靖子と共編,勁草書房,2007年)。

Asia’s New Mothers: Crafting Gender Roles and Childcare Networks in East and Southeast Asian Societies. Folkestone: Global Oriental, 2008, co-edited with Barbara Molony.

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